心象万華鏡・22/短歌


ミルキーがふにやつてくつ付く歯の裏がゝすかに残す欠落の味

ひと齧り、アンダーラインはマスタード ホットドッグに挟む切望
 
蒲団屋の名前の入つた提灯がけふの国境 まだ古生代
 
流行のパンプス、どれも魔女の靴 改札がヒステリー中です
 
知らなかつたはみだし方は紺色の水着の匂ひ カエルだつたね

丘の上にたつた二本の白樺が いつからそこにゐらしたのですか?

夏空に挑むかのやう 鉄塔はシニカルぶつて耐へてゐるのね
 
イタリアン・ドレッシングさへもうとまだ いつまでまだで、どこからがもう?

リノリウムの床にぺたぺた 生きてゐる証拠は一瞬だけなるアシカ
  
気配ならあそこに見える樹のしたで埋もれたまゝ ガラスの水槽

急ぐことは跳べないまゝの跳び箱の九段目だつた、今さらだけど

夕立といふ共犯者 ずぶ濡れのTシャツのすそ、滴がちくん

ひつそりと進行してゐたクーデターのジョーカーでした、知らないうちに
 
レミングス 電車ごつこは終点に着いちやいけないものなんぢやない?

とりあへずスイカになつたきのふからちよびつと痒い踵があるよ
 
理由なら誰にも知られないやうに食べちやつたもの これで、いゝんだ

この瞳で見える一番果て 遥か隅つこにあるちひさな点、海
 
考へても、考へたつて判るはずは 違ふつていふ沖の空色
  
太陽は沈んでも沈まないもの どうか忘れず、それだけはどうか

猫ならば真直ぐ伸びるトウモロコシ畑も樹海 全身でノビ

黒揚羽、そんなに低く飛ばないで けふは太陽黒点、おほきい

坂道をおりる どこかの海のこゑを隠したまゝの雲に聞き耳

話し掛けたサボテン、妙に不機嫌で棘ごと撫でた 痛くしていゝよ

溜めてゐた熱、いま放つ サルサとかサンバで炙り出される血統

雑踏でふいにあの懐かしい風 見えたよ、緑と水色の庭

こびりついた醜さといふ殻は殻でいまはそのまゝ 慌てないもの
 
もうちよつと、もうちよつとなんだ 種にヒゞは確かに入つてゐる 何かの芽

けふ都会の森はひときは騒がしい はぐれたスゞメ、いぢめないから

ボサボサの胸の羽毛がチャーミング カモさんに目で合図、ヒミツね?

来るたびに迎へてくれるクヌギ ねえ、うゝん、なんでもないよ、なんでも
 
ちぐはぐなのはコゝロとアタマではなくて 右と左を見る交差点
 
シャッターのピントを少しボケさせた 火照つたおでこにアイスノンでも
 
とても悲しい夢を見ました バンシーの末裔といふ轍、ひとすぢ
 
慰めてくれるの? いつもの樹の下で泣くとやつぱり降る葉と小枝
 
掬つても波打ち際の砂からは海が滲みだす 酸つぱい海が
 
絶望の絶望のまた絶望の極限にあつた ちつぽけな熱

揺籠が遡上してゐた時の河 いま南極にやつと着きます

退屈な保育ケースをぶつ壊せ 戒厳令とテロル、わたくし

哀調を刻み尽くした白骨が花と開くよ 闇に煌け

ポケットで息を潜める劣等感 チョコ、マグマへといま進化せよ

死なゝくちや生まれられない 死ねるつてあつたかいんだ、幸せなんだ
 
極光よ、地球を抱くぬくもりよ 両眼をこゝで潰さうと思ふ

最果ては最果てあるいは原始 火を噴く山、氷河 をんなは祈る

聞こえなくなつてゐたあの大地の脈拍を聞いてゐるのね、わたしの子宮

導いてくれた最初のカタチ 歌よ、言葉もいらない、叫ばせてほしい


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