心象万華鏡・21/長歌

ヒトといふ名前を脱いだ
わたくしといふひと茎の葦が伏す
皮膚なんていふ境界も開放すれば
幾兆のわたくしたちが謡ひだす

覚えてゐるよ
アミノ酸だつたあの日も
海底に生まれたちひさな泡だつたあつたかい日も
長いことなつてゐたのはゴンベッサ
進むのちよびつと怖くてね

星がくすぐつたがつたの
だから海とか大陸が割れてしまつて
帰れない
もう帰れない
生命のスープの外で後ずさり
 
背びれを野生の風たちが引つ掻いてゐた
ヒリヒリと
だから慌てゝ突つ伏して
土に溺れることだけを
この愛しさは懐かしさ
まぐはふ土はこの星の欠片、この星
 
伝令がシナプスに来る
そのために在るといふのに
もうひとり産むわたくしは
わたくしをまたひとり産む
わたくしもまたひとり産む
わたくしの数だけ産んで
わたくしの数だけ生まれ
幾億もまた幾兆も

営みは悠かに永いながい夜
土におやすみ
ヒトで在ることもおやすみ
ほんたうのわたくしはこゝ
葦よ、おやすみ
 
暗黒の大陸に立つ わたくしもイブと呼ばれたをんなの末裔
絡み合ふ螺旋のうづの端つこはヒトといふ名の葦、群生地













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