心象万華鏡・20/短歌

スイッチを左のポッケに入れたまゝ脱いだジャケット ストロー噛んで
  
スプーンで掬ふタピオカ 擬似的に殺害未満の心地だけする
 
痛いから瞼のふちが極まつてたぶん二秒後、零れる 光
  
てのうちに湛へたちひさな水鏡 見えない宙を抉じ開けてつて

透明な振り子がけふも泣いてゐて さむいね、だからあつたかいんだ
  
選り分ける端から棚に押し込んだ 最後に残つた気持ち、まあるい

なんとなく夜来香とか歌ひます 朝がどんなに菫色でも

砂浜はおほきくおほきく弧を描き、そろ/\帰らう 行くとも言ふけど
 
倒れたら立てばいゝぢやない とりあへず擦り剥けた膝、隠さないまゝ
 
川上がどこかとあれこれ考へた 遥かな砂漠に夕日が沈む
 
薄暗いロビーの灯りがぶち/\と自己主張する もう笑へるね
 
目を閉ぢて広がる荒野の端つこにいつかは立てる ゆふべ見た夢
 
たゞ土を掘る 暁の空の色、かすかにうすめた時をうづめて
 
ゐるといふ事実だけしか でもゐるといふ現実が真実、ジュゴン

最果ての思ひの空を往くシャチのつぶらな右目の野心 夜明けだ
 
進むほど窄まる血管 未来など知らない頭蓋でお泣きよ、クヂラ
 
流線型 判つてゐるよ、反骨といふ生き方をサメはできない
 
懐つこさが手招くものはゑがほより辛さ イルカといふ残酷に
 
踏み外したわけぢやないよね、ゴンベッサ 「ゼンタイ、スゝメ」の号令なんて
 
儚げな傍若無人の裏側の怯えた子供の膝小僧、だね
 
くるぶしで抗ふものはアムネジア 空の隙間にヤスリをかけて
 
自己暗示だらけなんだよ 欲しいのは顕微鏡よりトンボの眼鏡
 
畑にはでつかくちひちやくスイカたち 片つ端からお風呂、入らう
 
爆ぜるまゝ火の粉が散らす一瞬の祈り 透けゆくけふ、海になる

雑踏でひとり、草原でひとり もうドロップ、溶けてしまつたのつて
 
机にはいつかはしやいだ影法師 凍えてゐるの? おいで、あの夏

真昼では見えない空がさゞ波のやうに囁く 目は閉ぢてゐて
 
心だけ広々出来ないそのわけは昨日、千切つたページの隅つこ

あの喉で少しえばつてゐた突起 伝はる波に砂が流れる

熱帯の風を孕んで闇すらも身篭れたなら 土に頬ずり

書きかけの直線の端 とほくにはちひさな灯台ゆつくり光る
 
左手が匿つてゐる重低音 トマトの肌に爪を立てよう

帯びてゐるほのかな色は南極の氷のしたの地に生えた草

満ちてゆくみづがひとすぢ溢れたら昔つかれた嘘に「サヨナラ」

舞ふやうなすゝり泣きにも見えた肩 帰れなかつた海鳴りの丘

蛸足の配線でした ほどけない結び目みたいなワダカマリ、もう

図書館の貸し出しカードは糸電話 どこかの誰かのあなたは証人
 
朝靄に拾はれてゆく幼さは発掘現場の刷毛、待つてゐる
 
激情つて何なんだらう 堤防の向かうにゐるとは思ふのだけど
 
小粋です 沈殿してゆく隕石の欠片を醒ましてゐられるなんて
 
境界が接点である必要はないとふ氷砂糖の定理
 
たゞいま、と原生林に飛び込んだ 腐敗し崩れ生まれる吐息
 
希望とは絶望と一卵性の双生児 さう、原始の頃から
 
登る山、目指す荒野があるといふ幸が不幸といふ幸がナイフ
 
孤独です さうあるやうな生き方を選んで来たとふ事実こそ、歌

スライムが境界といふ境界でいつもふる/\ ひやつこい? ぬくい?

死にたいのだから生きたいのです、けふさへも やうやく引けた直線・・・激痛

薄汚れてしまつたけれど哀しまずゐようと思ふ ブランコ揺れた

約束はいらない 荒野の端と端でいつか生きてゐるつて謡ひ交はさう

おほきいといふ哀しみに身を灼いて黙るくぢらよ 氷河を見たか 

大空を見詰めたブラキオサウルスの涙 桃缶、分けてあげるね

極上の夢でくぢらを抱つこした だいぢやうぶだよ、もうだいぢやうぶ 
























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