心象万華鏡・17/短歌

見渡せば特大サイズの人工芝 神さまん家(チ)のベランダの隅 
   
わたしあひる 田圃に誘惑されてゐてこそつと足の指をもぞもぞ

水面に前を見ながら浮かべたら あをとあをとが交はるうへを

人間つて窮屈、できないことばかりあつて なれないものばかりあつて

白鷺の尾つぽのあたりの陶酔は許してしまへる 「だるまさんが転んだっ」

  庄内川 中州のちつちやなジャングルがえばりんばうでドキドキしちやう
 
駆け抜けた とほくちかくにいつまでも京都、片手は離したくない

この街の空はいつでも汗つかき わたしもその汗、ぺろつて大阪

街ごとに太陽さへも照り変はる 堺は白くて橙、緑

この先にいまもゐるよね、紀伊・大和 貝殻みたいに唄へ、思ひ出

神戸の土 触れていゝよね? 撫でゝいゝ? 神戸おやすみおかへりおはやう

  あつたかい饂飩やおでんを炊き出しで 九年経つてもわたし、ちつちやい

漬物や燻製に託した祈り ルネッサンスのルはカルメ焼き

  「がんばろや」、励まされたのはわたしなの 誰かの役に立つつてことで

哀しさに種類の違ひがあるせいでカルメ焼きすらさぼつてゐました
 
お玉のうへで融けて膨らむすかすかのカタマリは種 齧つて発芽
 
思ひ出したよ、またカルメ焼き送ります 神戸ごめんねありがとまたね
 
  綺麗だから 日本がこんなに綺麗だから、鼻がつんつんすごく酸つぱい
 
日本中どこまで行つても懐かしい 雲はガラガラ、星はおしやぶり

この夜の海側だけが濁つてゐて、なんか堪らず「ごめん」とだけしか
 
いつもとほくの灯りばつかり数へる、と手前のネオン にらんぢやいやだよ
 
ドーナツに納得できず金太郎飴を添へます 人工衛星

積極的に迷子でゐるの? 帰るのが怖くなつたの? めろんぱん買はう

周りから固まりだしたアイスキューブ 閉ぢ込められる空気、眠るな
 
  ぎゆうぎゆうと絞る果実といふ手段 絞つてしやぶつてしやぶりつくすんだから
 
ハーモニカはむかし捨てたよ たゞちよつとセピアの井戸に混乱したゞけ
 
  宛先のない暗号文 なぜ謡ふ? チリの沖から波、こつち来て
 
何となく何かゞいつもと違ふつて感じ始めた いま屈伸中
 
  むかし着てゐた洋服がやぼてんに思へるやうに 踏みしめる坂

その先は神のみぞ知る そりやさうさ、つてにんまりと握るゲンコツ

美男子のカラスに見とれた 厭らしい欲は最後に出す梅干の種

まだ何処か繋がつてゐるへその緒も狂つてぶちん ボスポラス海峡
 
思ひ出せ、どうして謡つてゐるのかを エデンもカナンもないといふこと
 
海に土、宇宙に借金してゐます 踏み倒すしかないのだけれど

健気ですか? 水晶玉に映るのはむかし覚えた図鑑の挿絵
 
何歳になつてもヘタな“む”とふ文字 コンプレックス第102号
 
  一滴の血が駆け巡る トーストのうへに寝そべるチーズに媚びよう

不完全 一本道のレールだけ走るダチョウを抱きしめたくて

  燃え尽きる瞬間なのにたゞ消える煙草 我慢はらくちんだもの
 
  あちこちがはみだしてゐた 吊り橋が大きく撓んでしまふみたいに
  
  はしやぐのは構はないけど、はしやぎすぎ これでもモンゴロイドなんだよ
  
  怖くない、さういふ怖さだと思ふ 全身の痛点に警告
  
  知らぬ間に緩む緊張 ごむばんどごむばんどごむ、取り替えなくちや
  
  ウミイグアナ気分 寒くて暑くつて、ちやうどいゝつて難しくつて
  
  許さないといふのは簡単 わたくしを許す勇気がかなり足りない
 
  パックごと買ふしかなかつた有精卵 自分の寝言のこゑで目覚めて
 
  冷やゝかな無くなりかけのマヨネーズ 罪滅ぼしができたらいゝね

石鹸がちつちやくちつちやくなつちやつてまた腫れぼつたい顔の朝です
 
  缶蹴りの缶になれないシーチキンのぺたんこの缶 背筋を伸ばせ

    生きてゐていゝんだよつて言ひたくて ひとり分では、足りなくつても



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