心象万華鏡・10/短歌

衝動的に死なうと思ふ フォンダンの掛かつたバウムクーヘンを見て

もういゝよ、へその緒なんて干からびてしまへばいゝよ 黄色いカード

判らないのだから、判つてもらへもしないだらう ふいにコンタクトレンズがぽろり

音もなく常盤木落葉が降るやうにもう一年が経つたとふこと

とり/゙\の色を湛へて薔薇の花 随分とほく来てしまひました
 
 だれの為とか何の為とかぢやなく 防波堤には手摺が二本
 
 あゝさうか、コとツとズとイだ ぽつてりと厚手の湯呑み包みこんでも
 
 でこぼこの道に何だか突つ伏して ころん、と死体になりたく思ふ
 
 霧雨のやうな飛沫を上げる海 いつそわたしを殺してください

喉もとに晴れない雲がひとつゐて上擦れないよ、こゑ 囁いて
 
 ゆふべ洗ひ忘れた髪がずつしりと 未来の岸辺への舫ひ綱
 
 夢想にて叶ふ恍惚 窒息死以外にはないとふオナニズム
 
 土すらも穢れて香るやうな気がしてしまひます 鳴るなよ、喇叭
 
 死にたいのは生きたいからで手離せない歌とふ呪ひに生かされてゐる
 
 この海の何処かにはあるニライカナイ 鯨の墓場は何処かにはある

おいで雲雀 木霊が何度も叫ぶのは空があんなにとほすぎるから
 
 憂きことを憂きと洩らせば余りにも優しいしがらみ 弱くてごめん
 
 等しさは価値ではなくて重みだと 漁火を見て泣いてをります
 
 生まれつきの性質なのだらう 共依存とふ名のやじろべゑがゆら/\
 
 無軌道な淋しがり屋の行列よ 蝋燭とける甘やかな香よ
 
 欲しいから先にあげるよ うへはした、東は西で、「give」は「take」で
 
 ゆつくりと風化してゆく骨髄はかすかに残る良心、きつと

 繰り返し耳元で泣く砂は川 空を穿つて滲むため息

 瑕ぐちはわづかに乾きはしたけれどカサブタ未満の膿を抱へて

 原罪が肌を斜めに流れゆく 贖ひは生、犯罪も生

 一瞬の錯覚、それも慰めになれるのならば あゝ空があをい

 救はれたい、救はれたいから救ひたい 産めない子供、なれないドナー

 さわ/\とデキソコナイの半端さが毛虫のやうに 背中が寒い

 自虐することで得られる安心は冷蔵されてゐるトマトだ、と

 うづを巻く洗濯機へと放り込むゆふべ抱いた破壊衝動

 アーリマン、テスカトリポカ、シヴァは祖 それも含めて宥めればよい

 重力に囚はれてゐる肉体よ、バス・カーテンの向かうに沈め




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