万物は哀調をその骨へと刻み
俗なるがゆゑに望むは聖地・崑崙

聖数は百八(イーリンバイパー)、紡ぐ念珠の
 拝礼を重ねる兜率天は手招く

海底で兜蟹から習ふソリティア
逼迫し蛇蠍の如くみづからを忌む

逼塞は閉門以上、遠慮以下とふ
熱き腕の黥、愛撫するやうになぞりて

腕ひとつ分だけ低い目覚めの視界
痺れさせたくない かつて気遣つた夜

文明が授ける麻痺はすなはち退化
爛熟に退廃しては破綻して虚無

糜爛した粘膜の様、まじまじと見て
膿、それは白血球が勝つた証明

証とは非は易くとも是ならば至難
分岐点 「まだ半分」と「もう半分」と

半蔀を押し上げるごと夕顔は咲く
序の舞に薫る儚き恋の陶酔

呟くは寂滅為楽のみ ゑひもせず
色は匂ふ 盛者必衰その後にまた

瑞雲が盛んに靡く 誇らしいほど
環天頂アークをいつかこの目で見たい

てつぺんといふ頂の記憶は呪縛
焦がれると焦るを結ぶ等号を知れ

称号もすべては遺物 形而上学
レーニンとマッハの議論 それはさておき

五芒星、カマトンカチと資本論の差
火と水の天地創造 ダビデの星は

前触れに白虹、天を貫く真昼
現れる五衰 頻りと瞬くばかり

くちびるが瞬時に塞ぐまぶた 「おやすみ」
夜ごと死し、あした生まれる 南中を待て

就中、埋め尽くしたい傾向の訳
渇望か貪欲なのか判断不能

渇くほど通る声音を自覚してゐる
仰ぎ見る冬の星座に得るシンパシィ

岩座は花の窟といふ名の社
架け替へる綱にて分かつ標は神域

不信ではなく反駁に標識を無視
むらさきは縁と禁忌を具現する色

仇花はむらさきがよい 附子とて然り
弛緩するアルカロイドのゑみだらしなく

弛ませるべきと思へば嘗める辛苦も
泣きながら斬る馬謖とは言はゞ己で

結局は斬り捨て御免が渡世の術で
だからこそ選んだ野生 泥に塗れる

永遠に捏ねる泥田はぬるま湯のやう
搾取する意欲に欠けて待つか、淘汰を

コリオリの力に背く気概が欲しい
黒潮に往くを任せて北回帰線

改めた基線 あなたはやはり男で
そのズルさ、優れて正しきひとつの誉れ

開示してもらへたことは名誉だとしか
醜さは温もりだもの 恒温動物

哺乳類、美醜を裁くホメオスタシス
核心に触れてくれ、とふ訴へを受理
  
愁訴され踏み込む先は六道の辻
対峙する、このみづからに 修羅道を征く

日輪と月輪と波 負修羅扇
中啓はすゑひろがりをされど象る

啓典に非ずも縋る倭の神話
真似事は分不相応でも指すの巫(ミコ)を

巫女寄せにおもろ謡ふか、聞得大君
縄文が弥生と和合するまへの島

混住と混在、混血 共生の末
国境はいづれなくなる そんな予感も

自己と他己 肌といふ名の久遠の境
婀娜めいてゐるつもりなく、たゞ在るまゝを

有無と是非 繰り返される拒絶と否定
諦めは悪い性質ゆゑ暦よ、進め

愛しさは透明な瑕、をんなの性が
数多なる糸、細くとも絶やさず握る

多面体 角張るほどに球へ近づく
ゲルとゾル、コロイド状の粒子が頼り

要するに頼りたいのはやはり言霊
自解など単なる結果 謡ふ意義とは

単音楽(モノフォニー) 引つ掻き傷を残したいから
何らかを拾つてもらふ さういふ連鎖

和されば上がる産声 連なる欠片
いにしへの歌垣のごとシンクロニシティ

人の世は総鏡張り 垣根を越えて
袖を擦るたびに刻印、この八雲道














心象万華鏡・5/片歌連歌(独詠)



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