心象万華鏡・3/片歌連歌(独詠)

水玉は無重力ゆゑとはに浮揚す
吹き上げる潮は慟哭 鯨の祈り

共振に哭く子宮とふパイプオルガン
遡上した太古の意志に逆らへぬまゝ

しづかなる反逆それも刹那に果てゝ
数へるは恒河沙、那由多 賽の河原で

なほ生きる 恒常性の虜囚なるゆゑ
見つからぬレゾンデートル 鏡面動作

流れ来る拍動 これぞヤマタイカの血
ニライカナイ、カムイコタンも祭りの系譜

旋律は楽譜を逃れ辻に谺し
かすかなる誰何の声に心乱れる

不文律 一心不乱に唱へる呪文
呪は祝とふ 世界はなべて相対を成す

結界のやうに羽衣(オーロラ)、闇夜に妖し
羅はかつて天女が探しゐたもの

北天に背を向け発たう この汀から
いづことも定めず着けばそれが答へと

幼さにアリスが堕ちた淡き執着
  心地好き奈落の日々よ 自慰と自嘲の

  地の底で蠢くものは瓊の象
  胎生し種の進化した記憶を手繰れ

枯れさうな泪は気化し視界を阻む
  蕩けゆく自我の境界 午睡の襞に

  打絹の襞に滑らす指先の傷
  擦れるたび幽けく響く 悲鳴が痛い

  幽玄を宿す篝火 ひと夜なればと
  発熱の暴走に耐へ撓る首筋

  撓ませてもぐやうに羽 みづから散らし
  風紋のその先の先 こゝに地、果てる

  先端を見つめ続けて時針を恨み
  瓶詰めの未来を抱けば途方に暮れる

  ふた匙の毒薬といふ未必の故意に
  解き放つには及ばない秘めた美意識

  秘術とふ大仰な銘打つならまして
  焚き染めた袖は香れど絶えた炎環

  燃えさうでまたも燻る髪に残り香
  望みとは堂々巡り アンビバレンツ

  語りたい、語りたくない 忌々しいほど
  怖いのは破滅ではなくわが身の力

  衰退と堕落が末路 力ある者
  新しき息吹はつねに弱者に萌える

  深く長く吐く溜息で過去に決別
  遅すぎた出逢ひが出合ふ これも宿命

  まなざしにかつて宿した切なさ緩め
  逝くと言ふあなたがなほも洩れ零す生

  極まれば沈む 孵せぬ卵子なほ熟れ
  成熟といふ名の老いに風化する義務

  老賢人、グレートマザーに統制されて
  アニムスといふ偽悪者のペルソナ砕く

  みづからに告げるペルソナ・ノン・グラータと
  自覚さへしてしまへれば 空は東雲

  錫杖の小環鳴らさう 空に掲げて
  太梁へ残すか迷ふこの千社札

  迷彩の梦は砂漠の門のレリーフ
  叙事詩とて所詮うたかた 命は無常
 
  果て給へ 居所のなきジレンマなどは
  平穏と安寧を得た代償の意味

  身代はりにさへもなれない愚者の幸福
  黙示せよ それでも未だ信じてゐると

  沈黙が導く呵責なき自尊心
  阿ねりで誤魔化せるならプラシーボだと

  憑依する阿国や天宇受売が統べる
  爪先に籠る躍動 大地を蹴らう

  言霊よ、湧く血と躍る肉に任せて
  染み付いた五七の調べ いざ言祝げよ

  わたくしといふ弦楽器 祝の琵琶は
  たゞ謡ふことしかできぬ それが玉音


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