心象万華鏡・2/旋頭歌

何となく惰性のまゝに日々は過ぎゆき
毎日はたゞさらさらと砂のやうに逝く

装つてゐたわけでなく虚飾でもなく
情熱といふ名の媚薬が枯渇したゞけ

越冬の準備は続く この身体へと
取り込んで、この胸に抱きしめて寝るもの

温かく、温かくしてからもぐる巣が
もつともつと温かければ、いゝね 誰もが

万物の回帰する先 原始の習ひ
アミノ酸時代に負つたあの化学式

行き過ぎた進化の果ては自滅あるのみ
自滅した果てに寄せ来る再生の波

気がつけば知らず瞼で軽く覆つて
目に見える世界との距離、測りかねてゐる

鳩一羽、窓から放ちひたすら願ふ
オリーブの小枝は要らない、帰つて来ないで

喩へれば方舟に乗り遅れるよりも
方舟を降り損なふといふ苦痛とも

どうせならエンキドゥこそ生き残れゝば
叙事詩には不要だつたよ、ウトナピシュティム

水槽にとぷんと腕を沈ませたまゝ
抜けてゆく熱でちよつとは誤魔化せるもの

希釈することができないものだからこそ
さらに濃いもの纏わせる 浸透圧なら

境などあり得ぬ心は半透膜で
包まれてゐることだけを無心に祈る

奔放はオプティミストの備へる鎧
臆病はペシミストならではの銃剣

全身の血の気が一瞬、逆流します
泛かぶのは報奨金とかグリコのおまけ

恐らくは夢や理想にひたすら酔つて
ゐた者はほかでもないね、このわたしだよ

お人形 判つてゐたけど判つてゐない
たゞ知つてゐたゞけといふ残酷神話

軋みつゝ鉄路を下るトロッコ列車
止まれない 破滅するまで、空を飛ぶまで

悟りとは堕落のやうなものなのだらう
エアロック、一方通行その先の穢土

水垢離を気取り霜夜に真水のシャワー
前髪を伝ふ滴は涙の身代はり

念仏のやうに何度も何度も唱へる
Ave Maria, gratia plena 罪とは無価値

みづからを責める愉楽と責められてゐる
安堵です 緊縛願望、独りSM

覚悟とは覚悟してするものでは多分
ないと知る 自然とさうしてゐたのが覚悟

セイフティ・ブランケットは要らないのかも
怖かつたものは今でも怖いのだけど

脱力す 手離すものは檻といふ名の
揺り籠で、ベビーベッドの柵を下ろさう

エナジーは自分の中にあるやうでゐて
世界から得る give and take の成立

みづからを映す鏡はまたみづからの
感情で時に笑つて時には泣いて

見えてくる、あれほどとほく感じた世界
なのに今、わたしは世界の片隅にゐる

またひとつ前提といふ檻を抜け出し
少しだけ心ひろびろ 脱皮成功

支柱でもぶら下げてゐる鎖でもよい
たゞひとつ、天は修繕されねばならぬ











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