足元はぐんにやり撓むアスファルト 世界の罪よこの身に集へ

目を凝らし見えない空中庭園を必死に探すあの白昼夢

人類の英知・聖書をまた繰れば宙吊りのまゝ唱へる祈り

それぞれの夢想の果ての平均台 わたしの倫理でスタスタ渡れ

広すぎる荒野を端からがむしやらに走つて転んで笑つて正座

狭すぎる心は偏屈 伝線の予防に冷凍するストッキング

手に包むアイスキューブが哀しくて 溶けるしかなく、かじかむしかなく

やんはりと握つた雪玉、飛べなくて空で崩れてきらきら散つて

人間味、それつて何だ? 世襲する両生類の脊柱の熱

思ひ出す、じつくりゆつくり思ひ出す 優しい時間といふオロナイン

響くたび、モホロビチッチ不連続面でぶつかる昨日と今日と

アカシック・レコードなんてないけれど押し寄せる波 頑張れ、海馬

降り積もる時間の毛布にくるまれば やうやく眠れる、ほつぺが熱い

強張りを解放 指を小指から開いて手のひら、お久しぶりです

尾底骨、おサルの頃へと還る宵 迷路は抜けずに乗り越えればいゝ

一杯のお白湯がじんわり全身を温めてゆく 海が聞こえる

いまもまだ廻つてゐますか? 灯台に照らされ消されたあの日の影は

引力といふ名の軛から解かれ 成層圏でラッコの姿勢

肩甲骨、いまでもちやんと残る痕 安全弁はまだこゝにある

ラグランジェポイントでならまた会へる 意志が推進力の揺り籠

溶けてゆく、わたしが透けて宙になる そのまゝ地球に授乳する夢

放射能、吹きまくつたら痛すぎて ゴジラもきつと痛かつたんだね

不条理を負つて赤子の泣き声でジャミラは叫ぶ わたしはジャミラ

瑕でありナイフでもある 存在は影と光のこの三次元

泣かせてゐる時は自分も泣いてゐる 痛みたちとふ絆を放置

甦るわたしの中の細胞核 ミトコンドリアよ原始を招け

空つぽの心に満ちる透明の小さく小さく尖つた欠片

目を瞑る しづかに結ばれゆく像はしんしんと降る雪の最果て

ことり、つてわづかに姿勢を変へるやうに朝霧が鳴る ほどけないうづ

痛いとふあをい波紋がゆつくりと指先にまで届く時間差

汚れゆくわたしを支へ、そゝけ立つ産毛が孕む静電気たち

息を吐き息を吸ふ音、響くたびさゝくれてゆくやはらかいもの

この星に緯度とふものがあるごとく無数に走る境界のうへ

海底でシーラカンスの見る夢はとほい昔の生命のスープ

数多なるルーツを匿ひ熟れる森 決して二度と出てはいけない

進化とふレールを拒みまた海へ帰つた鯨が啼くマドリガル

永遠のクロソイド曲線、何気なくなぞりなぞつて遣り過す夜

わづかだけ痺れて重い後頭部 何をそんなに訴へたいの?

一面に水晶柱の冴えてゐる大地に立てば、くちびるにゑみ

執着は招く、心へ焦燥を 喪失は呼ぶ、たゞ光る海

覚醒を急くことはなし シナプスは仄かに渇いた信号を待つ

満ちて来る生命力の夢を帯び、また灯台を見にゆけばいゝ

幾多なる営み眺め来た土よ 生きる痛みの意を授け給へ

日時計は星の時間を刻みつゝ巡る命の螺旋を描く

遥かなる太陽の東・月の西 辿る道なす大地とふ土

こゝにある こゝにこそある二次関数 X軸とY軸の基点

生まれたての野生を秘めた腕ひろげ、夜天光へとまづは産声

芽が生える 芽が伸びてゆく 素肌へと蔓からませてのけぞる、軽く

幾重にも幾重にも鍵、しつかりと いまラグランジェ・ポイントに着く

溢れがちなこの切望を封印し、やうやく会へたね お帰り、わたし





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心象万華鏡・1/短歌