空蝉の人の子もとより衣もなく
たゞ素肌のみ纏ひては
生れ来たるもの
空蝉の人の子もとより靴もなく
たゞ素足にて這ひつ立ち
歩き初めたるものなれど

いつゆ纏ひて装ひて
 重ね重ぬる単衣
 五衣なほ唐衣
 裳には裙帯、添へ垂れて
 纏へば纏ふそのほどに
 ちさく嘆かふこゑあるを聞こえざらむや
 
 悠かなるとほきいにしへ
 人の子の懐きゐたるは天に地に
 風またも水、草、光
 幾重に覆はれ隠れゐる
 肌はかつてを懐かしみちさくちひさくたゞ嘆く
 光が恋し、風恋し、土なほ恋し、空恋し

 せめても叶ふ指先に
 触れたきものと伸ばすなら
 袖さへ揺るゝ
 揺るゝ袖
 その向かうにも袖あれば
 互ひにゑみがほ相交はし
 世に触れゐたる指先はいづれ触るとも触るゝとも
 
 天あるゆゑに地もありて
 山あるゆゑに海もあり
 光あるゆゑ闇あれば
 世のあるゆゑに人あるらむ
 道はたれとてそもあらず
 歩きゆくゆゑ道は生る
 時に会はるゝことあらば
 ゑみに言の葉相交はさむ
 会はれし人も会はるゝ人も
 
 会へたるは遇へたるものにありゐるも逢へたることゝ相思ひたし




















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あからひく・・・/長歌