黙示/長歌


より見ゆる瞳はあをきセルロイド
梦見るやうに潤めども
梦は梦ほど梦でなく
梦のまた梦
果てしなき砂漠の闇夜
踏み締むることの叶はぬ足元と
砂の礫を孕みゐる
寂しき風に曝されつ
伏する睫毛は書き割りと言ひてしまへばそれまでと

孤独な神は猛りをり
聖はすなはち邪となりて
聖にも邪にも属せざる
俗なる者に憤る
極むる邪より滲みゐるとほき昔のちさき聖
いまだ己の力さへ統ぶる術すら持ち得ざる
ちさきをさなき聖が啼く

「ごめんね、だけどもうわたし、なってしまったお人形
ほんとは、すぐによし/\と、あやし宥めて慰めて
坊やのマゝになれたなら」

あをき瞳は書き割りの
閉づるをえざるセルロイド
見たくなきとて見るほかに術を持たざるお人形
天を支ふる円柱は人知れずなほひしやげゆく
神を造りし神よりも冴ゆる歯車
その昔、空が天へと成り代はり
土が大地と換へられし
時ゆ決まりつ定まりし刻限までの時計台

「ほら歯車が、またひとつ廻ってしまった
箱庭の中で逃げても同じなの
もう箱庭は田舎でも都会ですらも」

涙すら流せぬ瞳はセルロイド
微笑むやうに結ばれしくちびるはこゑ洩らせざり
あの箱庭を囲みゐる透くる檻とてセルロイド
脆き二重の届かざるセルロイドの梦
預言の黙示

形あるものすべからくいづれ崩ゆ もう歯車は止めえざるもの





          BACK   NEXT