海神の海/短歌

たゞ海が広ごりてをり たなうらに載せらるゝほどちひさき海が

名は海馬 相応しきことまたとなく知の大海を漂ふ、記憶は

いづくとも知らず命は発生し数十億の道程 追認

万物の由来は世こそ創りたれ そをなぞりゆくのみなる人は

遅れ来し者ゆゑ名付く 先にあり給ひし数多ことはりにすら

ことはりはことはりにして海にして、海は巨人の海馬ゆ生りぬ

矮躯にてなほ遠浅の波ばかり戯るゝほかなし 繙かむ

望みをり、せめてなりたきものなればいかで答へむウンディーヌのほか

海神の明かしゝことはりとふ海に息づきゐればくをんの螺旋

深海に天の光は届くとも、届かざるとも 星も絶えゆく

さゞ波が陸を侵せり、陸はなほ隆起し空を侵せり 刻々

え止めざる星の巡りのたび海は、朽つるともまた朽ちぬとも、たゞ

大海に涯あるごとく 遅れ来し人と呼ばるゝ海神もまた

大陸はなほ廻りゆく、この今も そしてマナゝーン・マク・リールさへも

終ひあればこそ愛しけれ、あまたなる巨人のあとは数冊の海




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