●12歳


 新任の梅本先生、なんかいい。兄ちゃんよりもやさしいんだもん。

 日光の修学旅行。ふんいきが、読んでる平家物語みたい。

 お母さん、あなたがどんどん遠くなる。兄ちゃんだけが大切なんだね。

 オセローはわからない。でも飛び込んで来る言葉たち、生き物みたい。

 揚げ物の油が燃えて火傷して、だけどあなたは火事の心配。

 兄ちゃんとシャアじゃ比べる気になんない。セイラがいいな。ああいうの好き。

 そろばんと習字をやめた。ピアノもね、今井先生じゃないからイヤだ。

 歌会にはじめて行った。ケンカしているみたい、でも違うんだって

 「契りあらば思ふがごとぞ思はまし(*)」 保健で習ったことなんだろう

 みずさんは私立に行くって。行きたいと言えない、お金かけちゃいけない。

 高校が決まった兄ちゃん、元気ない。母さんがまた泣いているから。

 もうだれも口をきかない。笑わない。ご飯の時間は冷たい時間。

          
* 契りあらば思ふがごとぞ思はましあやしや何の報いなるらん/和泉式部
           
この頃からようやく和歌や古典の情愛表現の意味が判ってきました。



            
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